8bitNews : パブリックアクセス(元 NHK アナ堀潤氏のフリージャーナリスト支援プロジェクト)

日米英の3国の通信業界再編

BTが本社売却(2001年6月)

ロンドンの一等地、セントポール寺院のすぐそばにBT(ブリティッシュ・テレコム)の本社はある。9階建ての本社ビルを見上げながら思った。BTが本社まで売る日が来るとだれが想像しただろうか、と。

帝国の終わり

メディアは「帝国の終わり」などと報じている。世界的な拡大戦略を展開してきた旧国営企業のBTは先月、携帯電話部門の分離、保有資産の売却など大リストラ策を発表した。

米AT&Tと組んで「コンサート」

大西洋をはさんだ巨人、BTと米AT&Tが手を結んで国際通信の合弁会社「コンサート」を立ち上げ「最強連合」といわれたのは、1998年7月だった。そのコンサートは、2001年第1四半期に2億4400万ドル(300億円)の損失を計上、BTは株式売却を検討している。

新興企業の参入、国際通信の値下げ競争で、収益の見通しが大きく狂った。大手同士で組めば、多国籍企業を囲い込めると思ったのが間違いだった。「二頭政治」が経営判断を遅らせたとも指摘されている。

ボーダフォンに敗れる

欧州各国で次世代携帯電話の免許を取るための出費がかさみ、BTの抱える負債は、279億ポンド(約5兆円)に膨れ上がった。携帯電話の戦略では、同じ英国のボーダフォンに後れを取り、BTが持っていた日本テレコムの株式は、このライバル企業に売り渡すことになった。

国営企業の政治的手腕

イギリスのコンサルタントには「問題はBTの企業カルチャーだ」との声がある。政府の規制にしばられ、企業戦略の決定や実施が遅れがちになる。「国営企業を運営する政治的な手腕と、競争市場で成功することは全く違う。BTは方向転換したけれども、国営企業の過去をもたない新興企業よりも不利だ」とエコノミストのジョン・ケイ氏は指摘する。

官僚システムの弊害

膨大な中間管理職や官僚的なシステムに妨げられることのない新興企業の方が、変化の激しい通信市場では有利との見方は強い。

ドイツ・テレコムやフランス・テレコム
役員の多くは民間出身

8階のこぢんまりとした部屋で迎えてくれたBTの役員、パトリック・ギャラガー氏(戦略・開発担当)は、そんな声を一笑に付した。46歳にはみえない若々しさだ。

「私は、官僚体質とはどんなものか知らない。役員の多くは他の産業界の出身だ。1984年の民営化以来、経営や企業文化はすっかり変わった」

メディアの報道に不満

ギャラガー氏は、英のメディアの報道ぶりに不満げだ。欧州大陸のドイツ・テレコムやフランス・テレコムも巨額の負債に苦しみ、株価も下落しているのに、英メディアのBTに対する扱いほどひどくはないというのだ。

AT&Tも苦戦

米国の旧独占企業、AT&Tも苦戦

米国では、AT&Tが苦戦している。

地域通信網を失う

1997年に最高経営責任者(CEO)についたマイケル・アームストロング会長は、TCIなどのケーブル企業を傘下におさめた。1984年に地域通信会社がAT&Tから分割され、市内通信網を失った。ケーブルを手に入れ、ケーブルを使った電話、インターネット、それとAT&Tの長距離・国際電話とすべての事業を行う狙いだった。

ケーブルでは国の後押し

米監督当局のFCC(連邦通信委員会)は、地域通信会社には回線の開放など厳しい義務を課した。が、ケーブルについては、市内通信網への対抗勢力に育てるために非介入政策を取り、実質的にはAT&Tを支援してきた。

積極買収が裏目に

しかし、積極的な買収攻勢のためにAT&Tの負債は膨れ上がり、インターネットバブルの崩壊もあって、株価は急落。アームストロング会長は2000年10月、会社を4分割する再編計画を発表した。

元FCC法律顧問の見方

元FCC法律顧問で、現在はコンサルタントのケネス・ロビンソン氏は「アームストロング氏は業界のことを知らず、戦略もない。ほかの通信企業が調査の結果、欲しくないと言ったケーブル会社を調べもしないで買った」と手厳しい。

企業文化の問題も

企業文化の問題もあるという。「旧独占企業は、顧客に対してどういうものが欲しいのか聞かない。どんな値段で何を買うべきか、顧客に押しつける体質がある」

NTT対イー・アクセス

世界最大の通信企業、NTTはどうか。

イー・アクセス
千本倖生社長のNTT論

NTT勤務、新電電のDDI副社長などを経て、今は高速インターネット、DSL(デジタル加入者線)サービスのイー・アクセスの千本倖生会長は「NTT地域会社は古い独占企業体質を色濃く残している。(携帯電話の)NTTドコモには、NTT(の持ち株会社)から離れたがっている人が多いが、古いNTTは一つの船が良いと考える」と話す。

BTやAT&Tは独占体質から脱皮図る?

BTやAT&Tは、経営行き詰まりの打開策として、携帯事業を分離して、再生を図ろうとしている。それは、独占体質から脱皮する最後の「かけ」にもみえる。

ドコモ株を手放さないNTT

一方、NTT持ち株会社は、NTTドコモの約3分の2の持ち株を決して手放そうとしない。NTT地域会社はDSLの新規参入を阻害したとして、公正取引委員会の警告も受けた。

ベンチャーも交えた競争

通信サービスは、固定電話、携帯電話、ケーブルなどの別々の設備の上でさまざまな新技術が生まれている。世界中で、大企業、ベンチャー企業が入り交じってサービスや料金値下げの激しい競争が起きている。

独占のツケは消費者に

世界の監督当局は、何を市場に任せ、どういう技術を人為的に育成するのか微妙な判断を迫られている。ただ、はっきりしているのは独占企業が独占を守り続ける限り、そのつけは、消費者に回ってくるということだ。高い料金という形で。

アメリカの大胆な通信改革

米国は通信分野に競争政策を積極的に導入してきた。厳しい規制と緩和を繰り返す試行錯誤の歴史だが、NTT分割が10年以上も議論され続ける日本に比べればはるかに進んでいる。

AT&Tを7つに分割

1984年、AT&Tを長距離部門(現在のAT&T)と7つの地域通信会社(RBOC)に完全分割し、RBOCの長距離通信への参入を禁止した。

ADSLが普及

1996年、RBOCに地域網開放の条件つきで長距離通信への参入を認める一方、1999年には他の通信事業者との「回線共用」を義務づけた。この結果、新規参入が進み、高速インターネットが可能になるADSL(デジタル加入者線)は一気に普及した。ただし、体力で勝るRBOCが料金を大幅に値下げしたため、新規参入組が倒産するなどし、最近はDSL料金がやや値上がりする傾向にある。

日本テレコムが提携

日本テレコム、BT、AT&Tが資本提携を発表し、3社のトップが東京で記者会見したのは、2年余り前の1999年4月。BTのボンフィールド社長、日本テレコムの坂田浩一会長、村上春雄社長、AT&Tのジグリス社長は、握手を交わした。(島田雄貴)